社労士による給与計算
賃金台帳の記載方法

給与計算の大前提として、日本の労働基準法では、賃金は時間で計算して支給することになっています。
これは、月給であっても、日給であっても、また、年俸であっても同じことです。
月や日などで決められた日や時間以外に働けば残業となりますし、その残業代は時間単位で計算しなければなりません。
うちは年俸だから毎月の残業代は計算していないというのは、法律に反することになってしまいます。
したがいまして、残業計算は労働基準法ですので、労働基準法が試験科目となっている国家資格の社会保険労務士に依頼することは理にかなっています。
また、社会保険や労働保険も給与に直接関係し、複雑なルールもございますので、この意味からも社労士へのご依頼をお勧めしております。

1.割増賃金の計算方法 その1「変形でない通常の労働時間制」

ここでいう「変形でない」とは「1か月単位の変形労働時間制」「1年単位の変形労働時間制」「フレックスタイム制」ではない通常の労働時間管理を指しています。

① 法定外残業の給与計算(割増残業手当)

労働基準法で定められている労働時間の上限は1日8時間、1週間40時間(特例は44時間)です。
この時間を超えて働かせることはできませんが、時間外労働・休日労働に関する協定書(通称36協定といいます)を労使で作成し、労働基準監督署へ提出した場合は、これを超えて残業させることができます。
ただし、この場合も36協定に記載した時間を超えて残業させることはできませんので、注意が必要です。
以下でご紹介する内容は、労働基準法上のものですので、それよりも良い条件で就業規則が作成されている場合は、その就業規則に従うことになりますので気を付けましょう。

では、実際に残業代をどのように計算するかについて、以下、説明いたします。

まず、計算に必要なデータは以下です。

年間の所定休日数

1日の所定労働時間

具体的な計算式は以下となります。

(365日-年間の所定休日数)×1日の所定労働時間÷12か月=1か月の平均所定労働時間

(基本給+諸手当)÷1か月の平均所定労働時間×1.25=1時間当たりの割増賃金の単価

なお、諸手当からは次の手当を除くことができますが、それ以外は全て含めて計算しなければなりません。

通勤手当

家族手当

別居手当

子女教育手当

住宅手当

臨時に支払われた賃金

1か月を超える期間ことに支払われる賃金

厚生労働省労働基準局監督課

では、基本給30万円の方を例に実際に計算してみましょう。

1日8時間、週40時間、休日は土日・祝日とします。
1か月の残業時間は15時間でした。

1か月の平均所定労働時間=(365-120)×8÷12=173.33・・・≒173.3時間

1時間あたりの割増残業単価=30万円÷173.3×1.25≒2,164円

1か月の残業代=2,164円×15時間=3万2,460円

② 法定内残業の給与計算(普通残業手当)

法定内の残業、つまり、1日8時間、又は1週40時間以内で発生した残業については、割増賃金ではなく、普通賃金(1.0倍)の単価で残業手当を支払えばよいことになります。

例えば、年次有給休暇を午前中の半日単位で取得し、午後に出勤して所定時刻を超えて就労した場合です。
13時出勤、18時が定時の退社時間のところ2時間残業し、20時に退社した場合は、2時間残業していますが、実働時間は7時間です。
したがって8時間を超えていませんので、その2時間は割増賃金ではなく、1.0倍の普通賃金で残業代を計算します。
また、週の途中の水曜日に年次有給休暇を取得し、会社が休みである土曜日に出勤した場合、その週の所定労働時間は32時間ですから、土曜日に出勤しても8時間までは40時間を超えないことになり、割増賃金ではなく、普通賃金(1.0倍)で残業代を計算することになります。

③ 深夜労働の給与計算(深夜手当)

午後10時から翌日午前5時までの間に労働時間がある場合は深夜手当を支払わなければなりません。

ここで注意が必要なのは、この時間に働いた場合は、例え残業でなくてもその手当を支払う必要があるということです。

具体的な計算式ですが、1か月の平均所定労働時間の求め方は①の割増残業手当と同じです。

(基本給+諸手当)÷1か月の平均所定労働時間×0.25=1時間当たりの深夜手当の単価

ここで、あれ、深夜は1.5倍じゃないの?と思った方もいらっしゃるでしょう。
少し違います。
所定労働時間を超えて8時間以上働き、かつ、残業している時間が午後10時から翌午前5時にかかっている場合に、結果として1.5倍になるということです。

例えば、取引先の都合で午後3時から時差出勤した場合があったとします。
その場合、8時間働いた場合(休憩1時間)は午前0時が定時退社時間です。
労働時間は8時間以内なので残業はしていませんが、深夜労働が2時間あります。

この場合、先ほどの基本給+諸手当を1か月の平均所定労働時間で割った時間単価に0.25を掛けた金額を2時間分支払う必要があるということです。

深夜手当として午後10時から翌午前5時まで働いた時間を全て1.5倍の単価で支給していますと、払い過ぎになる可能性があります。
1日8時間又は1週間40時間を超える割増残業であり、かつ、深夜の場合に結果として1.5倍になるわけですから、法律どおり、割増残業手当を深夜手当は別々に計算しましょう。

④ 法定休日の給与計算(法定休日出勤手当)

こちらも誤解が多いところです。
法律上、休日出勤には1.35倍の割増賃金を支払わなければならないことを知る人は多いと思います。
ここでいう休日は労働基準法上の休日、つまり、週に1回の休日のことをいいます。会社のお休みのことではありません。
したがって、例えば、土日・祝日がお休みの会社で、日曜日から土曜日までの間に全て出勤した場合、その間1日のみが、休日出勤手当である1.35倍で計算すべき日ということです。

では、ほかの休日はどのように計算するかといいますと、1週間の所定の労働時間が40時間を超えた出勤がある場合に、その時間は割増賃金である1.25倍で支払います。
逆に、所定の労働時間が40時間に収まっている場合は、割増賃金ではなく、1.0倍の単価で残業代を計算すればよいことになります。

曜日 労働時間 所定時間累積 割増賃金
日曜日 9:00~18:00   8:00(休日)
月曜日 9:00~19:00 8:00 1:00
火曜日 9:00~18:00 16:00  
水曜日 9:00~20:00 24:00 2:00
木曜日 9:00~18:00 32:00  
金曜日 9:00~18:00 40:00  
土曜日 9:00~18:00   8:00

この表でいいますと、1.35倍の法定休日出勤手当は日曜日の8時間のみで、ほかの割増賃金は全て1.25倍となります。
ただし、仮に木曜日に有給を取得した場合は、土曜日の休日出勤は割増賃金ではなく、1.0倍の残業単価で支払うことになりますので、注意が必要です。

1日の所定労働時間が7時間30分の場合は、更に複雑になります。同じ条件で表にしますと以下となります。

曜日 労働時間 所定時間累積 普通賃金 割増賃金
日曜日 9:00~17:30     7:30(休日)
月曜日 9:00~19:00 7:30 0:30 1:00
火曜日 9:00~18:00 15:00 0:30  
水曜日 9:00~20:00 22:30 0:30 2:00
木曜日 9:00~17:30 30:00    
金曜日 9:00~17:30 37:30    
土曜日 9:00~17:30   1:00 6:30

上記の表で言う普通賃金とは、1.0倍の残業単価です。
ご注意いただきたいのは、累積の所定時間と普通賃金、割増賃金の関係です。
お休みである土曜日に出勤していますが法定の労働時間の累計が39:00ですので、40時間まであと1時間ございます。
したがって、土曜日の労働時間7時間30分の内、1時間のみを普通賃金で支払い、残りの6時間30分を割増賃金で支払うことになります。

また、上記いずれの場合もそうですが、週の途中で年次有給休暇や国民の祝日がある場合は、この所定労働時間40時間には含めませんので、普通賃金の枠が更に広がることになります。

2.1か月単位の変形労働時間制の給与計算

1か月単位の変形労働時間は、1日8時間、1週間40時間という通常の枠ではなく、1か月の総労働時間で計算できる制度をいい、曜日や週によって労働時間が異なる場合の労務管理に適しています。
例えば、曜日によって診療時間が異なる医療機関や日によって拘束時間がことなるイベント運営会社などが具体例として挙げられます。

例えば、以下のような場合です。

・ 曜日によって所定労働時間が異なる

月曜日:9時間
火曜日:8時間
水曜日:8時間
木曜日:6時間
金曜日:9時間 合計40時間

・ 週又は日によって所定労働時間が異なる

1週目:30時間
2週目:35時間
3週目:35時間
4週目:55時間

または

日によって労働時間が16時間の日もあれば、4時間の日もあるなど

上記のような場合、1か月の所定労働時間の合計を以下の範囲で設定することができます。

31日の月:177時間
30日の月:171時間
29日の月:165時間
28日の月:160時間

それぞれの月で暦日数が異なるため、上記のように設定できる所定労働時間が異なるのですが、計算式は以下です。

その月の暦日数÷7×1週間の所定労働時間
(例:31日÷7×40時間≒177.14時間(小数点以下切り捨て可))

変形労働時間制としない場合、1日8時間を超える時間、1週40時間を超える時間は全て割増賃金で支給しなければならないため、業種によっては大変な不合理がおこりますので、特例として設置された労働時間制です。

① 1か月単位の変形労働時間を運営するための条件

・ 就業規則又は労使協定で1か月単位の変形労働時間に関することを定めること

・ 就業規則又は労使協定で定める時効対象労働者の範囲
例えば、営業、業務など部課単位で適用している場合は、その部課名を明示します。

a.対象期間および起算日

例えば、毎月1日を起算日とし、1か月を平均して1週間当たり40時間以内とする。などと記載します。(ただし、1か月単位の変形労働時間制の場合は期間は1か月以内に限られます。)

b.労働日と労働日ごとの労働時間

勤務シフト表のことを言います。1か月単位の変形労働時間制を運用するためには、1か月ごとの勤務シフト表の作成がマストです。
また、一度決めた勤務シフト表は、原則として、事業主都合で任意に変更することはできません。

c.労使協定の有効期間

労使協定に定める場合は、協定の有効期間を定める必要があります。

② 1か月単位の変形労働時間制における残業計算

1か月単位の変形労働時間制の残業計算は、通常の労働時間制とは全く異なります。
1日、1週間、1か月の所定労働時間を1日単位で判断する必要がございます。
具体的には以下のように計算します。

a.1か月の所定労働時間が法律上の上限の場合
(例えば、31日の月に177時間など)

この場合、残業時間は全て割増賃金として計算します。
例え、その日の所定労働時間が6時間で実労働時間が7時間であっても、1時間の残業は割増賃金として計算します。

b.1か月の所定労働時間が法律上の上限より少ない場合
(例えば、31日の月に167時間など)

この場合、1日と1週間両方の基準で判断します。
所定労働時間が6時間で実労働時間が7時間の場合、1日でいいますと、8時間を超えていないのですが、同時にその日が1週間で所定労働時間が40時間を超えていないかどうかも判断する必要があります。
この1週間と言いますのは、毎月の起算日から1週間ごとに区切った週をいいます。
もっと具体的に言いますと、以下の表のようになります。
起算日は毎月1日、1か月の所定労働時間は31日暦日数の月で167時間、休憩時間は全て1時間とします。

日(曜) シフト時間 所定時間 実働時間 普通賃金 割増賃金
1日(木) 11:00~18:00 6:00 9:00 2:00 1:00
2日(金) 10:00~21:00 10:00 10:00    
3日(土) 10:00~21:00 10:00 12:00   2:00
4日(日) 11:00~17:00 5:00 5:00    
5日(月)        
6日(火)        
7日(水) 10:00~17:00 6:00 8:00 1:00 1:00

上記表では、「普通賃金」は1.0倍での残業単価、「割増賃金」では1.25倍での残業単価で計算します。
特に難しいのが7日(水)の普通賃金1時間、割増賃金2時間の部分かと思います。
6日(火)の時点で法定内の所定労働時間の合計は
1(木)6:00+2:00
2(金)10:00
3(土)10:00
4(日)5:00
合計33時間
です。
法定内で割増賃金とならない労働時間は残り7時間です。
7日(水)は6時間が所定労働時間ですから、法定の40時間の枠では残り1時間までで、それ以降は割増賃金となります。
ですので、1時間の法定内残業時間を計上した時点で40時間に達するため、1日の8時間を超えてはいませんが、残りの1時間は40時間を超えた部分に当たるため割増賃金になるのです。
なお、1日(木)と3日(土)に割増賃金合計3時間ありますが、この時間は割増賃金として既に評価されているので、40時間の法定内時間には計上しません。

1か月単位の変形労働時間制は、業態によっては非常に運用しやすいと言えますが、給与計算はとても複雑になります。
しかし、法定内と法定外を分けて計算しなければ、つまり、所定労働時間に関わらず全て割増賃金として計算しますと人件費の増大に直結するため、お勧めできません。

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