固定残業制の導入について

「固定残業制?聞いたことあるし、大体知っているよ。」という方は多いです。
ただし、誤解をしている方が多いことも事実です。
今回は「固定残業制を正しく理解するため」についての記事です。

 

1.現在の給与について

まず、固定残業制に入る前に、現在の給与はどうなっていますか?その給与が以下のいずれかに該当していたら、要注意です。

ケース① 残業代は、さっくりと給与に含まれていることになっている

ケース② 残業は1日1時間程度なので、特に支払っていない

ケース③ 残業は結構あるが、給与はそこそこだし特に不満も上がっていないので大丈夫だ

どうでしょう。大丈夫ですか?
次に、なぜ、これらに該当すると問題があるのかを順にみていきましょう。

2.問題点の考察

(1)ケース①について

給与に残業代がさっくりと含まれている場合、例えば「残業20時間分を含む」などという場合、その20時間分は、基本給部分と残業代部分とに分かれて金額が表示されている必要があります。

【悪い例】

ア 固定給30万円(20時間分の残業を含む)
イ 基本給27万円 営業手当3万円(残業代20時間相当)

【良い例】

固定給30万円の場合の内訳は

基本給 26万2,100円
固定残業代(割増賃金20時間相当) 3万7,900円
26万2,100円÷173時間≒1,515円
1,515円×1.25×20時間=3万7,875円

このような金額提示がなければ、法律通りの計算で残業代が支払われているどうかがわかりませんね?この点が固定残業制が正しいか正しくないかの最初の基準です。

争った場合に、「この給与はどこまでが基本給で、残業として計算した金額がいくらかの区別ができないので、残業代を支払っているとはいえません。この手当を入れた給与の全額をもとに残業単価を割り出し、残業代を正しく計算しなおしてください。」となってしまいます。

では、「「営業手当は残業代20時間相当」と明示して支給している。だから、営業は残業代を計算して支払う必要がない。」という場合はどうでしょう。

答えは、「×」です。

この場合、そのほとんどが、営業手当は一律支給となっていると思います。その金額が、割増賃金の対象となる基本給とその他の手当を含んで計算している場合、給与が違えば残業単価が変わるわけですから、割増賃金として計算された金額ではないということになってしまいます。

つまり、「この営業手当は、残業代として計算されたものとは言えないので、この手当を含めて残業単価を出して、改めて残業計算をし直してください。」ということになるのです。

(2)ケース②について 

1日1時間の残業未払いは、いくらになるでしょうか?一見大したことなさそうですね。
ちょっと計算してみましょう

まず、土日がお休みの会社の場合、年間休日は105日ですから、
1カ月当たり平均出勤日数は(365日-105日)÷12=21.6日
月当たりの平均出勤数を約22日とすると、1カ月当たり22時間の未払い残業が発生します。

【基本給30万円の場合】
残業の基本単は

30万円÷173時間(1カ月の平均所定労働時間)=約1,734円

となりますので、

割増賃金の時間単価は1,734円×1.25=2,168円

ですね。
ということは、

1カ月の未払い残業は2,168円×22日=4万7,685円

です。
そして、

賃金の時効は2年なので4万7,685円×24カ月=114万4,440円

になってしまいます。
もし、これに

同額の付加金が加わると114万4,440円×2=228万8,8880円

という結構な金額になることがわかります。
SNSなどで、情報あっという間に拡散する時代です。
このような情報を同僚間で共有した場合、複数の従業員が手を挙げる可能性があります。
ちょっと前までは、誰も知らない、気づかないことでした。
ところが、最近の働き方改革、休み方改革の影響で、本来の労働基準法のルールについて、改めてクローズアップされてきているのです。

(3)ケース③について

この半年で、残業、有給に関する事業主様からのご相談は倍増しています。
今は、「給料は高めの設定」「不満の声が上がったことはない」というのも時間の問題です。
政府の推し進める働き方改革に伴い、労働基準法がクローズアップされている現在ならば、なおさらです。

実際によくあるケースでの残業未払い請求
【毎月45時間の未払いがあるケース・月給30万円の場合】

30万円÷173時間=1,734円
1,734円×1.25×45時間⇒月額未払い残業代9万7,538円


⇒請求額は9万7,538円×24ヶ月 ⇒ 234万0,912円
⇒付加金が加わると468万1,824円

 複数の従業員が同時に・・・莫大な金額に

3.固定残業制のすすめ

そこで、固定残業制の導入をお勧めしています。
簡単に言いますと「給料をそのままで、残業代をちゃんと支払っているというルールへ変更する。」ということです。
というと、「なんだか怪しい、従業員を騙しているみたいだ。」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではないのです。
現在の給与の金額は

①会社の売上
②業務量
③個別の経験・能力など

によって決定していたのではないでしょうか。
本来は、給与額を決定する際に予想される残業代を予めシミュレーションしたうえで、基本給を決定すべきでした。
でも、そうでない会社様はたくさんありました。現在もたくさんあります。
そのそうでない会社様が、給与決定根拠Aをもとに、さらに残業代を計算して支給したら、、、それは払い過ぎです。
ですから、正しく、これからは正しく残業代を計算しましょうということなのです。
固定残業代は合法です。
ただし、合法と認められるために、必ず必要な3つの方法があるのです。

 

4.固定残業制導入のために絶対にしなければならないこと

その1【固定残業制導入時の整備】

(1)就業規則に固定残業代を規定すること。

具体的には

・固定残業代を支払うこと
・支払う固定残業代は割増賃金の計算式で計算すること

を規定しなければなりません。

(2)何時間の固定残業代なのかを明示すること

雇用契約書などに、「割増賃金〇〇時間相当」などと明示します。

(3)差額を支払い旨を明示すること

実際の残業時間による残業代が固定残業代を上回った場合は、その差額を支払うことを雇用契約書に明示し、かつ、就業規則に規定すること

その2【所得保障】

固定残業制というと、従業員さんたちは以下のような印象を持ちます。
・固定残業制は違法じゃないの!?
・残業代が一定額以上支払われなくなる!?
そこで、魔法の言葉があります。

「もし、固定残業制で給与が減った場合は、会社がその差額分を保障する。」

です。
これは、かなりの効果が期待できます。
「会社が給与を保障してくれるなら、悪い話ではないな。」と受けれてもらいやすくなるというわけです。
ただし、無条件で手当たり次第に保障するというわけではありません。

① 導入前と導入後で比較し、同じ時間数働いているにもかかわらず、給与が減った場合は、差額の8割を保障する。

② 前年同月と比較し、差額がある場合に、その差額の8割を保障する。というものです。

 

なぜ、8割なのか。

それは、残業代を正確に計算することにより導入前より賃金が増えることもあるからです。
減った場合は、差額の8割保障。増えた場合は、当然にそのままです。
しかし、減った給与がしばらく続く場合は、賞与や決算の時期にその減額した差額を全額保障します。
差額保障にも信ぴょう性が出ますし、会社側の人件費増額というリスクも相当部分回避できます。

やはり、事業運営にとって、人件費の増大は、おそろしいです。
法律通りに給与を支払っても、事業運営が滞っては本末転倒です。

その3【十分な労使交渉】

① 導入前の根回し

まずは、固定残業制導入のために、根回しをしましょう。
従業員と個別面談を行ったり、普段から固定残業制導入のことを公表しておくのです。
全従業員を集合させ、いきなり固定残業制導入発表のサプライズはあまり良いことが起きません。

② 合同説明会の実施

従業員の理解を得るために必要になってくるのが、所得保障の話です。この仕組みをしっかりと理解していただくためには、やはり、合同説明会が不可避です。
「従業員から理解を得ること」これが一番難しいのです。
固定残業制は、たとえ残業がなくても支給する必要がある手当です。
つまり、固定的部分で保障されることになります。
加えて、実際の残業がそれを上回れば差額としての残業代が支払われます。
従業員さんにとって、どこにも損する部分がありません。
そこをしっかり説明します。

③ 導入直後のフォロー

一番問題が起きるのは、導入直後です。
従業員さんたちも半信半疑で始めた固定残業制。
「最初の給料が減った。」となれば、その額が千円でも、騒ぎが起きます。
よくありますのが、数万円下がる場合です。
従業員さんの中には、給料日までの残金が1万円を切っているという方も珍しくありません。
そのような方にとって、数万円の減額は死活問題です。
差額が発生した場合を想定しておき、給与時に特別手当の支給を準備しておきましょう。

④ 同意の担保をとっておく

そして、新賃金について、雇用契約書や雇用条件確認書などで、署名押印によって、同意を得た担保を確保しておくことです。
あとで、「こんな労働条件の変更に同意した覚えはない」という意見が出ては、せっかく決まった新制度が台無しです。
書面で合意を客観的に明らかにしておきましょう。

以上ですが、固定残業制は、労働基準法に沿った制度であり、従業員にとっても決して不利な制度ではありませんし、会社としても合法的な給与を支払うことができ、働き方改革の現在、まさに絶対に取り組むべき制度です。
導入についてのご相談は、ぜひ、社会保険労務士・行政書士事務所アストミライへご相談下さい。

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