取調室を科学する シリーズ1 ~なぜ、ラーメンではなくカツ丼なのか。
なぜ、取調べでは、ラーメンではなくカツ丼なのか。
このような疑問を抱いた方も少なくないだろう。
皆さんは、どのような根拠でカツ丼とお考えだろうか。
・テレビドラマのワンシーンが有名になったんでしょ?
・やっぱり出前で暖かい料理の定番だしね。
・いかにも刑事が普段食ってそう。
などなど、色々なご意見があるでしょう。
実は、カツ丼でなければならない理由があるのはご存じだろうか。
もちろん、後付けだが。(キッパリ)
だって、なぜなら、ドラマのシナリオライターが元刑事なわけがないし、刑事にインタビューしたわけもないのだから。
さて、カツ丼の根拠を紐解いていくことにしよう。
① タイミング
取調べは、何と言っても「タイミング」だ。これが全てと言えるほど単純ではないが、タイミングを逸すると得られる自供のチャンスを失うことになる。
では、実際に調べ室(取調室の俗語)に入ってみよう。
若い男が、その奥で、虚勢を張っている。
特に何かを発しているわけでないが、刺々しい空気の中にいることは間違いない。
が、どこかで怯えている様子も、指先の僅かな震えから読んでとれる。
彼は強盗の事実で、昨日、通常逮捕されたばかりだ。
夜のコンビニ、刃物で店員を脅し、現金3万6,000円を強取した容疑だ。
男は、昨日の取調べて「やってない」と一言答えただけだ。
今日は日曜日、いつも騒がしい刑事課も静かだ。
そこへ五十代、ずんぐりむっくりの男がゆっくりと入ってきた。
目つきは鋭く、どんな動きも俺は見逃さないと書いてある。
若い男は、一瞬、目の前のデカに目をやるが、すぐに目をそらし、フンっと言わんばかりに横を向いた。
しばらく沈黙が続いたが、デカは静かに言葉を発した。
「お前、ガキがいるんだな。。。生まれたばかりの。」
若い男は、「それがどうした」と言わんばかりに、睨み返す。
デカは、続けた。
(中略)
若い男は、机に突っ伏したままだ。
10分は経っただろうか。
デカは「顔を上げな。」と優しく向ける。これまで鋭かった追及が嘘のようだ。
若い男は、ゆっくりと顔を上げた。
デカはそれを見て、調べ室のすぐ外にいる若い刑事に「おい、持ってこい。」とだけ伝えた。
若い刑事は小さくうなずくと、すぐさま、盆に載った青い陶器のどんぶりを調べ室に運び入れた。
ぼそりと「何も食ってないんだろ。昨日から。」とだけ、デカは言った。
若い男は、蓋を開けると、まだ僅かに暖かいカツ丼を貪り食うようにかき込んだ。
そして、およそ半分くらいまで腹に収めたところで、突然、嗚咽と共に、何かを絞り出すように泣き始めた。
(・・・失礼いたしました。長すぎです。
こんな使われ方をしたカツ丼だが、これがラーメンだったらどうだろう。
まだ僅かに暖かいラーメン。。。いや、うどんを貪り食うように口へ運んだが、すぐさま「伸びてて食えないっす。」と書き換えなければならないだろうし、おそらくホシは落ちないだろう。
② 飴と鞭
取調べは飴と鞭。鞭ばかりでは当然に落ちない。鞭ですぐさま落ちるような奴だったら、刑事の取調べを受けるようなことにはならないだろう。
飴の使いどころはタイミングだ。最初から飴を差し出しても、やはり落ちない。
飴が飴である役割を果たすためには、その飴が長い時間、飴の姿を留めておかなければならない。
ゆえに、カツ丼なのだ。
③ そして、暖かい食べ物
温度は絶対に欠かせない要素だ。
暖かい食べ物と人間の暖かみをリンクさせ、人間味を取り戻させる。
犯罪に走った者は、生来の悪人でない限り、何らかの決意をし、自分の中のヒトを殺している。
その催眠から目覚めさせる起爆剤とするのだ。
視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚
五感のおよそが揃っていて、コスパに優れており、飴としての息が長い。
そして何より分かりやすく、言葉での説明が要らない。
これらすべての要素を考えると、カツ丼以外に、この瞬間の立役者はいない。
(・・・言い過ぎか。)
お分かりいただけただろうか。後付けなことを。
いや、そうではなく、実はカツ丼に根拠があることを。
もし、調べ室でカツ丼が出てきたら、なるほどと感じて欲しい。
念のため、言っておくが、今はどんなに落ちなくてもカツ丼は出てこない。
カツ丼が食いたくて、飴を待っていても、その飴が姿を現すことはない。
現代の調べ室は、水、お茶以外の飲食禁止。それに禁煙だ。
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